Sweet Sweet

私とシャルルは恋人になる前から仲が良かった。
シャルルの朗らかな性格はとても居心地がよく、単純にフィーリングが合っていたのかもしれない。
彼はレジスタンスの仲間たちとも性別問わず仲がいい。みんなに優しいひとだなと思う。もちろん私に対してもそうだ。だけども私にはそれにプラスアルファがある気がしている。

 

「マスター?」

 

呼ばれてはっと我に返る。少し見上げた先には首をかしげるシャルルがいた。

 

「あ、ごめん。ちょっとだけ考え事してて」
「えー、ひどいなぁ。こんな男前が目の前にいるのに他のこと考えるとか」

 

茶化すような言い方だった。それでも次には、何かあった? と心配そうに微笑む。
こういうとき、どうして彼は些細なことも漏らさずわかってくれるのだろうと不思議に思う。しかしまさか「シャルルのことを考えていた」と面と向かって言うのは私が恥ずかしいので、大丈夫だよと笑って見せる。

 

「ほんとに? マスターが大丈夫って言うとき、だいたい大丈夫じゃないからなぁ」
「そんなことはないと思うけど」
「あるよ。この前だって、手の傷からめちゃくちゃ出血してたのに誰にも言わなかったじゃん。大丈夫ー、ってごまかしてた」

 

反論できない指摘に言葉が詰まる。つい俯いてしまうと、少し硬かったシャルルの声が再び柔らかいものに変わる。

 

「だから、大丈夫じゃないなら言って欲しいな。今に限ったことじゃなくてね」
「うん……。でも今は、ほんとに大丈夫だよ」
「そっか、わかった」

 

頷いてはくれたがやはり心配と疑念があるのか、シャルルは包帯が巻かれた私の手を取る。それを自分の頬に当てて、すり寄るように手のひらへ口づけてきた。
早く治るように、良くなるように。そんなおまじないでもかけているように見えた。
優しさを享受する中で私は、彼の仕草と手のひらに当たる吐息に心臓が音を立てていた。誰にでも優しいなと普段から思っているけれど、こういうのが私に対するプラスアルファだと思っていた。

なんというか、とても甘い。
普段の優しさや気遣いだけでも充分どきどきしたりするのに、こんなに甘いものを加えられてそれどころでは済まないこともしばしばある。恋人だからこそだと言えばたしかにそうなのだけど。私が嫌ではないとシャルルもよくわかっている。
シャルルがそのまま手を軽く引っ張った。こっちに来て、と暗に言っている。今だってすでに近いというのに。恋人とはいえこれ以上に近くなるなら、もはや次がどうなるかなんてわかっているけれど。

私はずりずりとシャルルの傍に寄った。自分たち以外に誰もここにはいないけれど、互いの肩や腰が触れてしまうくらいの近さは改めると恥ずかしさがある。
それをごまかすように、シャルルの頬に当てられたままの手を動かして彼の髪へと差し入れた。緩いウェーブがかかった黄色の髪はふわふわしている。
私から触れていることにシャルルは気をよくしたのか、さらに引き寄せるように腰に手を添えてきた。
そのまま顔が近づいたので咄嗟に目をつむると、頬に唇が押し当てられた。ふう、と頬に当たる吐息に体温が上がる気がして、徐々に頭が働かなくなっていく。頬に触れるか触れないかのまま、シャルルの唇は下へと肌を滑ると、唇の真横にまた柔らかく押し当てられる。焦らされているような気分になってもどかしいけれど、私は何よりこの空気が、この感覚がとても好きだ。

目が合って微笑むシャルルはまるで、今どんな気分、とでも訊いてきそうだった。もし訊かれたなら、とっても甘い気分と今は素直に答えられる。
そんな私はどんな顔をしていたんだろう。目を閉じたシャルルがようやく唇にキスしてくれたくらいだから、よほど物欲しそうな顔をしていたのだろうか。だとしたらそれは少し恥ずかしい。
だけどももう、思考は徐々にとろけそうになっていたからなんでもよかった。触れ合って何度か角度を変えるキスは、今に限らずいつだって甘い。だからいつも、遅かれ早かれ私はシャルルのこと以外何も考えられなくなってしまうのだ。

 

「ねえマスター……?」
「うん……?」

 

鼻先が触れる距離で、少し掠れたような呼びかけにまた思考の一部が溶けていく。

 

「マスターって、パンケーキみたい」

 

あったかくて、柔らかくてふわふわで。口に運ぶとすごく幸せな気持ちになるよ。
可愛らしい表現に照れくさくなった。でもシャルルの言葉がとても嬉しくて、ありがと、と小さく返す。そこで、溶けかけた思考がわずかに動いた。
髪は綺麗な黄色で、とろりとした滑らかな言葉で、溶けてしまいそうなくらい甘い。
ああ、そう言うならシャルルだって。

 

「シャルルって、蜂蜜みたい」

 

そうだ。とても合う組み合わせだから、フィーリングが合うに違いなかった。
すると彼は小さく笑う。最高にパンケーキに合うね、とまた甘いキスを再開した。