浮遊する朝

ふわふわとした心地よい眠りに落ちているオレの睡眠を聞き慣れたアラーム音が邪魔をする。その音を無意識に止める術すら身につけているオレにとって目覚ましなんてものはあまり意味を為さないものになっていた。
手探りで目覚ましを止めて、手を布団の中に引っ込める。

少しだけ起きた意識は窓の外から音を拾った。
雨が降っている。なんとなく朝から晩までローテンションになる雨の日はあんまり好きじゃない。あー、朝から憂うつだ。
そんな気分も重なって余計にベッドから出る気が失せていく。でも、低くなる気分とは逆に雨音のリズムは再びオレを眠りの世界へ落とそうとする。
いや、ダメだ。ここで起きないとコーンのげんこつで文字通り叩き起こされるハメになる。

もぞもぞと起きる準備運動としての寝返りをうっていると、突然軽快な電子音が鳴る。
ライブキャスターの音だった。誰だ、こんな朝っぱらから。

 

「……はい?」
『ポッドくん? おはよう』
「……え、ナマエ!?」
『うん。目、覚めた?』

 

ライブキャスターの画面に映っているのは間違いなくナマエと、寝起き姿であるオレだ。
ちょっと待て。なんでナマエがこんな朝からオレに電話をかけてくるのか。何かあったのか?
目が覚めるどころか完全に脳まで覚醒した状態になった。

 

「どうかしたのか?」
『んー? コーンくんがね、ポッドくんが朝起きれないから起こしてあげてくれって言ってたから』

 

いつの間にコーンはそんなことをナマエに伝えていたんだろうか。
毎朝オレを起こすことがめんどくさくなって、その役割をナマエに投げたってことか? いや、これはこれでオレにとっては願ってもないことだけど。
でも気づいた。画面を隔てているナマエは話をしながらもあくびをしたり目をこすったりしている。そうだ、ナマエだって早起きなんて得意じゃなかったはずだ。

 

「ナマエ」
『うん?』
「コーンに頼まれたってだけなら、別におまえまで無理して起きなくていいんだぞ?」

 

早起きして悪いことは無いとは思うけど、ナマエの睡眠時間を邪魔してまで起こしてもらうのは気が引ける。

 

『無理なんてしてないもん』
「うそつけ。ナマエだってけっこう寝起きだろ?」
『だって、朝起きて一番にポッドくんと話せるなら頑張って起きるよ』

 

予想もしない豪速球ストレートを受けきれなかったオレは顔に熱が集中するのを感じた。
なんだよ、その嬉し過ぎる言葉は。これは赤い顔がバレると思って枕に顔を押しつける。

 

『ポッドくん?』
「あー、なんでもない。ちょっと待って」

 

急にオレが画面から消えたことを心配したのか、優しい声が耳をくすぐる。とても機械を通して聞いているとは思えないくらい。

 

「ナマエ、明日はオレが起こしてやるから」
『なんで?』
「で、あさってはナマエがオレを起こす」
『交代制ってこと?』
「そ! そのほうがお互いにちゃんと起きれそうだろ?」
『そうだね。そうしようか』

 

お互いが起きれるように、なんて表向きの理由に納得してくれたらしいナマエは、これからの交代制で起こし合いをしていくことを承諾してくれた。
たぶん、これからは目覚ましなんて今まで以上に必要ないものになるだろう。ナマエから電話がくる前に起きれそうだ。

 

『なに笑ってるの?』
「いーや。雨が降ってるなぁって」
『そりゃ降ってるけど……別におもしろくはないと思うよ』

 

だって、朝一番にナマエと話せるっていうのに、のんびり寝坊なんてしてられないだろ。