願わくば共にある未来

※公式に沿っていないねつ造あり。

 

ちょっと時間もらえるかな。
シャルルにそう言われたのは、ちょうど恭遠さんとの話が終わった後だった。

 

「恭遠さんは、なんて?」
「これからの活動は各国の復興作業になるって。レジスタンスのメンバーはいろんなところに配属されるみたいだよ。希望はとるだろうけど」
「そっか。マスターの配属は、まだわかんないんだよね?」
「うん。でも……故郷のほうに希望を出すつもりだよ」

 

そう言うと、シャルルは少し悲し気に眉を下げた。
私の故郷は世界帝軍の制圧によって被害を受けたことは、彼は知っている。家族もいないことも。
レジスタンスにはそういう人たちはたくさんいる。困っている人はこの世界にたくさんいる。どこに配属されても文句はない。しかし叶うなら、自分の故郷をもう一度蘇らせたい。少しでも、自分の記憶している故郷の風景を取り戻したい。そう思っている。
シャルルは黙っていたけれど、徐に手を握られた。驚いて彼を見上げるとシャルルは真っ直ぐにこちらを見ている。

 

「俺も、一緒に行っていいかな」
「え……」

 

なんと返事をすればいいのかわからなかった。
一緒に。それは、もし希望が通れば私の故郷へということなのだろうか。希望が通らなくても、私の行くところへということなのだろうか。

 

「そのリアクションはないでしょー。俺、一応君の恋人のつもりだったんだけど」
「や、それは、そうだけど……」
「配属が決まってマスターがそこに行くとして、俺とはどうするつもりだった?」

 

その質問に答えることはできなかった。俯いた私が生み出した沈黙に、シャルルが小さく笑うのがわかった。
シャルルのことが好き。そんなことは当たり前のように自分の中にあった。
革命ともいえるであろう一斉蜂起によって、世界帝軍との戦いが終わりを告げた今、今後のことを何も考えていないわけでもない。
けれども「一緒に来て欲しい」とシャルルに言えなかった。

戦いから解放されて、シャルルが今の体のままで生きていこうと言うのなら、もはや彼にはひとりの個として生きていく権利がある。
ならば私はそれを尊重したかったのだ。一緒にいたい。だけどもそれは自分の個人的なわがままでしかないのだと。

 

「マスターが懸念してるのはどんなこと? 俺が人じゃないこと? それとも、一緒に来るのが俺じゃ頼りない?」
「そんなこと……!」

 

そんなことあるものか。思わず顔を上げてみると、私とは反対に次はシャルルが俯いていた。
シャルルは私の両手を包むと、自らの額へと押しあてた。彼の表情は見えなくなってしまう。それはまるで祈るような。

 

「たしかに俺は、人間じゃない。歴史があるって言っても元々はただの古銃だし、絶対高貴を使う必要もなくなった今、人と同じことができるだけだ」

 

自嘲を含んだような声に、喉が詰まる。

 

「きっと君と一緒に、歳をとることもできない。それでも、」

 

ああ、だめだ。
喉が熱くなって、きりきりと痛む。それが目にも伝導する。しかしシャルルの言葉のすべてを、聞き逃してはいけないと全身が訴えている。握られた両手が、力の強まりを感じる。
許されるなら──そう言葉を続けるシャルルは顔を上げた。

 

「それでも俺は、君と一緒に生きていたいよ」

 

シャルルは微笑んでいた。けれど目からは涙が流れていた。
シャルルの覚悟であって、これ以上にない愛情だった。
もう逃げようがなかった。曖昧な答えは自分に許さない。彼の覚悟に真摯に応えずどうしろというのだ。
しかし返事をしなくては思うのに喉が熱くて声が出ない。握られていた手を動かして、シャルルの指と絡ませた。手に強く力を込めて、どうにかこうにか頷いた。しかしこれだけでは足りない。シャルルがこれだけの覚悟を見せてくれたのだから、私も相応に応えなくては。
背筋を伸ばして、胸を張ってシャルルと向き合う。

 

「私の故郷、華やかじゃないよ」
「それを、俺たちが復興活動で華やかにするんでしょ?」
「私は、そのうちおばあちゃんになっちゃうし……」
「俺が君を好きなのは、今だけってわけじゃないよ」
「私がシャルルにしてあげられることって、すごく少ない」

 

シャルルが口を開こうとする前に、私はそれを遮った。こぼれそうになった涙を自分で乱暴に拭った。
今だけは泣かない。目の前のひととのこれからを、この先の未来を願う時くらい、強くありたい。

 

「でも私も、シャルルと一緒に生きていたい」

 

幸福なことばかりではないかもしれない。たった今、誤った選択をしたかもしれない。でもこのひととなら、それも乗り越えていけると信じていなければ。
目を合わせたシャルルもまたさらに泣きそうに見えたけれど、彼はシャツの袖で涙を拭うと優しく微笑んだ。

 

「マスター……、いや、違うか」

 

絡んでいた指がそっと解かれ、シャルルは私の指先に手を添える。名前を呼ばれた。

 

「俺はシャルルヴィル。これからも、あなたを守ります」

 

そうしてそっと、手の甲に唇が触れた。