グラシデアの花畑でシェイミを見送り、ムゲンとはそこで別れた。
通報をいれ、ジュンサーたちがここへ到着したのち、ムゲンは責任持ってゼロを慰問するという。
惜しみながらも花畑を離れたあと、サトシたちと共に外れにある村に訪れていた。
船で氷河の海を下る途中で、ある港に着いた。そこで、山岳列車に乗った時に出会ったレイラとムース夫妻に再会したのだ。
もしよかったら故郷の村に寄っていかないかと、レイラのひいおばあさんの誕生日パーティーに招待された。
「お誕生日おめでとう、ひいおばあちゃん」
レイラがグラシデアの花をプレゼントすると同時に、椅子に座る全員が拍手を送った。快晴の空の下で行われたパーティーはとても胸に残った。
思いがけず招待されたパーティーを終えた後に夫妻と別れ、再び船で海を下る。
なんとなく客室へは入らず、全員でずっと甲板にいた。
手すりに肘をついて空を眺める。特に口には出さないが、なんとなく、全員が同じことを思っているような気がしていた。
きっとあの子は元気でやる。悲しいことではない。だから大丈夫だ。そう思ったのが終いだったかのように、ピカチュウがサトシの頭に飛び乗ったことで小さな沈黙は笑顔に変わった。
短い船旅を終えて街に着き、駅を目指して歩く。
「そういえば、ステラはこのあとどこに行くんだ?」
「ちょっとだけ知り合いの所に顔出して、ミオシティに行く予定だよ。そのあとはしばらくそこにいるつもり」
「ミオシティかぁ」
「サトシは?」
「俺はヨスガジムのメリッサさんに挑戦するんだ」
「戻って来てるといいわね、メリッサさん」
「そうなんだよなぁ……」
「あ、メリッサさん、まだジムにいないことが多いんだね。わたしの時もそうだった」
ヨスガジムのメリッサは、ジムリーダーもチャレンジャー同様修行の身、自分ももっと強くなりたいという思いから修行の旅をしておりジムに不在のことが多い。
加えて、コーディネーターとしてポケモンコンテストにも参加しているようでなおのこと不在率が高い。
ポケモンジムは他にもあるがサトシは一度、ジム戦とは関係ないバトルでメリッサと対戦しているらしい。そのこともあって、よりメリッサへの挑戦意欲が強いようだ。
「メリッサさんは強いよ。頑張ってねサトシ」
「おう!」
駅に到着してホームへ入る。
サトシたちとは行き先が違うので、別の列車に乗らなくてはいけない。つまり、ここでお別れになる。
それに気づいたのか、それまで笑っていたサトシの顔が一気に曇った。
「せっかくまた会えたのになぁ……」
「そうよね。あたし、もっといろいろお話したかった…」
再会したサトシと、初対面だったヒカリは拗ねたように小さく口を尖らせた。その反応には嬉しさと困惑が混ざってしまう。
せっかく会えたのにまた別れなくてはいけないのは、たしかに寂しい。
しかしながら、今回は帰郷であるが自分には自分の旅があって、どこまでもサトシたちに合わせたりはできないのも事実だ。
目が合ったタケシは困ったように笑っており、ステラも黙って苦笑で返した。惜しんでくれるのはとても嬉しい。だからこそこれが最後ではないし、また会いたいと思う。
「もしよかったら、みんなでミオシティにも来てくれたら嬉しいな。ミオにもジムがあるし」
そう言ってみるとサトシはぱっと顔を上げた。
「ほんとか……! 絶対に行く!」
よーし、ヨスガジムの次はミオジムだ、と一気に意気込んだサトシの切り替えの早さに笑ってしまう。
「ヒカリも、その時にまたゆっくり話そうよ」
「ええ、きっとよ!」
ヒカリはコーディネーターとしてコンテストに出ているというし、今度の大会を調べて見に行くのもありかもしれないなと考えた。
「今回はタケシの料理食べられなかったから、今度会ったらぜひ食べたいな」
「ああ、任せてくれ」
タケシの料理はしっかり胃袋を掴まれる。次会ったときはきっとまたありつきたい。
さりげない別れの挨拶を交わしていると、ホームに列車がやって来た。
そのことに改めて別れを感じるサトシたちはまた眉を下げたが、扉が開くとゆっくり列車へ乗り込んでいく。ホームに残るのはステラだけだ。
列車に乗り込み、くるりとこちらを振り向いたサトシは笑顔だった。
「またなステラ!」
「ピカチュ」
「元気でね!」
「ポッチャマ!」
「気を付けて行くんだぞ」
各々がかけてくれる声にしっかり頷く。
「うん! またねみんな」
サトシがこちらへ手を差し出してきたので、それに応えて握手を交わす。
扉が閉まるというアナウンスが流れたために手を離せば、同時に列車のドアが閉まる。
お互いに窓ガラス越しに手を振り合えば、列車はゆっくり動き出していく。遠くなっていく三人を追うように小走りするが、すぐに追いつけなくなってしまう。
それでも、サトシたちは見えなくなるまでこちらに手を振ってくれていた。
思いがけない場所での再会だった。
嬉しさが大きかった反面、その分別れはとても寂しい。サトシやヒカリの反応に困り顔でいたのは、自分が彼らよりも年上だからという無意識の意地だったのかもしれない。
どうしても別れは付きまとうが、サトシたちはミオシティに来てくれると言っていた。その言葉を信じて待っていてもいいだろう。
誰もいないホームでステラは大きく腕を上げて背伸びをする。
「さて、と!」
つま先立ちの状態から踵をしっかり地面につければ、それが合図かのように次の列車がやって来た。自分は自分の目的地に行かなくては。
列車の音が響くプラットホームからふと空を見上げてみれば、小さなピンクの花びらが舞ったような気がした。
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映画EDより。BGMは「ONE」。