分岐と交差

キッドの車でオルドラン城へ戻ると、サトシ共々アイリーン女王から強く抱きしめられた。
はじまりの樹の異常は城の結晶へも伝わっていたようで、女王は相当心配してくれていたらしい。

 

「あ……、みんな、あれ!」

 

マサトが指差したのは、祭りの日にも見たアーロンの肖像画だった。
その時と同じように勇者としての彼の姿が描かれているが、あの日見たのとは少し違っている。

 

「あれは……、」

 

杖を掲げるアーロンの隣には、ルカリオが描かれていた。
一体どうして、と思考が頭を巡るが途中でどうでもよくなった。

 

「アーロンに会えたんだな、ルカリオ」

 

ステラが思っていたことをサトシが呟いた。同意して大きく頷く。

 

「うん」
「ワウッ」

 

サトシやガーディと顔を見合わせて笑う。

──よかった。よかったね、ルカリオ。アーロン、あなたも。ルカリオと会えてよかった。
どうして、なんてそんなことはわからなくていい。彼らが再会できた。何のわだかまりもなく。その事実だけで充分だった。

 

 

アイリーン女王に挨拶をしてオルドラン城を後にする。夕方のロータの町を抜けて、ロープウェイへ乗り込んだ。

 

「あ! ねえ、あそこにキッドさんがいるよ」

 

ロープウェイの中から指差した先の外にはキッドがいた。
キッドとは町の途中で別れていたが、向こうで車から降りて手を振っている。改めての別れに、こちらも全員で手を振り返した。
とても助けてくれた。これからの彼女の冒険や、それに関する情報があったら追いかけておこう。
キッドは車に乗り込み出発していく。それを見送ったタケシは号泣だった。無理もない。

 

「これからいい人が見つかるといいね、タケシ」

 

慰めでステラがぽんぽんと肩を叩くと、「そうだな……」と鼻声の返事が返ってくる。そんな様子にマサトはため息をついていた。
ロープウェイ乗り場を出た後は、ステラはサトシたちと別の方向だ。

 

「ステラはどこの町に行くんだ?」
「ニビシティに行こうかなって思ってた。五つ目のバッジに挑戦しに行くよ」
「おお、ニビシティか!」

 

タケシが嬉しそうに声を上げる。なんと、タケシは元ニビジムのジムリーダーで、現在はタケシの弟がジムリーダーを務めているのだという。

 

「そうだったんだ! でも……弟さんには悪いけど、勝たせてもらうね」
「そう簡単にはいかないぞ」

 

お互い不敵に笑うが、すぐに本当の笑顔に切り替わる。

 

「タケシの料理、すごくおいしかったよ」
「ありがとう。作り方は教えた通りだから、作ってみてくれよ」
「そうするよ。元気でね、マサトくん」
「うん、ステラさんもね!」
「グランドフェスティバルのときには見に行くね、ハルカ」
「ええ。優勝しちゃうカモ!」
「サトシも、バトルフロンティア挑戦頑張ってね」
「おう! ステラもリーグ挑戦頑張れよ」
「うん、ありがとう」

 

全員と順番に握手を交わす。

 

「じゃあね、ピカチュウ」
「ピーカッ」
「ワウッ」

 

ピカチュウとガーディも握手のように手を合わせた。
はじまりの樹を出てからもガーディはボールに入ろうとしない。ピカチュウに別れを言いたいのも理由だったのだろう。

 

「それじゃあ、またなステラー!」
「またね、みんな!」

 

お互いに手を振りながら歩き出し、いつしか完全に見えなくなった。
一緒にいたのはたった三日だった。三日なんて、今まではあっという間に過ごしていたのに。この三日の間に経験した出会いと別れはあまりにも色濃くて、心に刻まれるものだった。だからこんなに寂しいのか。

ありがとう、みんな。

 

「ニビジムリーダーはタケシの弟かぁ。頑張ろうね」
「ワウ!」

 

ニビシティに到着するまでに数日はかかるだろうが、士気を上げておくに越したことはない。
とりあえず近くの町まで着いたら今日はそこまでだろう。もうすぐ日も暮れる。

 

「町に着いたらショップに寄ろうね」

 

ガーディが首を傾げる。ロータでも買い物をしたので、必要なものは足りているからだ。もちろんそのとおりだが、薬やポケモンフーズ以外で欲しいものがある。

 

「板チョコを買うんだ。ガーディも好きでしょう?」

 

ぱちくりと瞬きをしたが、板チョコというワードに嬉しそうに頷いた。

 

―――――

 

ここに来るのはいつぶりだろう。

今回はカントーにいたのが少し長かったせいもあって、もう随分前な気がした。だが、しみじみと時間を感じるほど前ではないはずだった。
あちこちに岩があり、足場はいいとは言えない。ステラは足元の大きな石を飛び越えた。

 

「ガウ?」
「大丈夫だよ、転ばないから」

 

時々、岩の陰からココドラやイシツブテが顔を覗かせる。大きな音がするのは、ハガネールやボスゴドラなんかが移動しているのかもしれない。上空を見上げればエアームドが飛んでいる。
相変わらずはがねタイプが多いことに、なんだか懐かしくてうずうずした。

鋼鉄島だから、当たり前か。
普段なら、修行のトレーナーがいたりしてちらほら人もいるはずだが、今日は休日なこともあってかさっぱり見当たらない。
ふと、隣を歩いていた相棒が足を止めた。

 

「どうかした?」

 

鼻がぴくりと動いたので、何かの匂いを拾ったらしい。
足を再び進めると彼は徐々に小走りになり、自分よりも先に行ってしまう。

 

「あ、ちょっと……!」

 

相棒にとっては小走りでも、ステラにとっては普通の走るスピードだ。
そっちは低い崖になっている。立ち止まった彼に追い付き、捕まえるように体に腕を回す。体の大きさからして、もう以前のように抱き上げることは叶わないので、それもほぼ意味がないが。

 

「ウインディ、どうしたの?」

 

下へと向けられているウインディの視線を追って、そこで止まった。
人がいた。

つい、反射で足が動く。その拍子に、足元の小さな石が下へ転がった。
それに気づいた青い服の人がこちらを見上げる。彼の横にいた、青い体躯のポケモンも同じようにこちらを見た。あれは、ルカリオだ。

驚いたように、その人の青い目が見開かれた。目が合った自分も、同じようにそうなった。
ここまで誰とも会わなかったのに急に人がいたんだから、驚いても仕方がないってものだと思う。

 

(こんにちは、はじめまして)

初対面の挨拶の次には、何を言えばいいのかな。

 

──────
前半は映画EDより。
BGMはもちろん、PUFFYで「はじまりのうた」。