「なぁに、またアンタも付いてくるの?」
出撃のために軽く支度をしていると、エフが断りなく部屋の扉を開け放ってきた。
マナーとしてノックぐらいしろよと思いつつも、こういうのは一度や二度ではない。大人の対応でスルーしてやり「うん」と返事をする。
「足手まといは勘弁して欲しいのよね。なんでアンタが来るのよ」
「だって上から指示されるから。仕方ないじゃん」
エフは近くのソファーに、これまた断りなく腰かけて足を組む。長い脚が羨ましい。しかし、誰の部屋だここは。一応私の部屋のはずだ。
「わかんないわね。アンタただの人間じゃない。来る意味あるワケ?」
「まぁ、エフが調教してる一般兵よりは多少使えると思うよ」
オートマ式の銃の状態を確認し、ホルスターへと納める。替えの弾倉をバッグに入れてそれを肩に掛ける。私の主要武器であるサブマシンガンを手に取れば準備はできた。
エフは装備の整った私を見て不満そうに眉を寄せる。
「アタシは使えない愚図はいらないのよね」
「それ、私のこと?」
訊ねてみるがエフは、さあね、とごまかした。
まぁ今の話の流れでそれを言われるということは、十中八九私のことを言っているのだろう。
自分はそこまで使えないとは思わないけど。
そうでなければ彼ら貴銃士という特別幹部たちと、こんな風にタメ口で話せるものか。
彼らと並ぶ程の地位はないけど、少なくとも彼らの出撃に同行させるくらいには使えるのだと、上からもそう認識されているということだろう。
「よし、準備できたよ」
「アタシにそれ言ってどうすんのよ」
「え、待たせて悪いなって思ったから」
するとエフはぱちぱちと何度かまばたきを繰り返した。
まだガスマスクを着けていないので呆気にとられた表情がよくわかる。
エフはなにも文句を言うためだけに、わざわざ私の部屋に来たわけではないだろう。
「迎えに来てくれたんじゃないの?」
私の支度がまだだったものだから、こうしてソファーに腰かけていると思っていた。
エフは我に返ったように立ち上がると、鼻を鳴らした。
「勘違い女は黙ってなさいよ」
彼の武器であり、本体であるアサルトライフルをしっかりと手に持つと、銃口をこちらに向けてきた。
焦りも驚きもしなかったが、すう、と背中が冷える。
「覚えときなさい。アンタは人間なの、愚図なの。アタシがこの場で撃ったらすぐに死んじゃうようなヤツなのよ。アンタがどんなに役に立とうが、そこは変わんないわ」
銃を下ろした彼は扉へと向かった。背中を覆っていた冷ややかな感覚が消えていく。
「だから精々、死なないように大人しくしてなさいよ? アタシの出撃に付いてくるなら、なおさら死なれたら困るわ」
「はいはい、気を付けますよ。でももし死にそうになったりしたら、その時はエフが助けてくれるでしょ?」
エフはこちらを振り向くと、生意気言ってんじゃないわよと盛大なデコピンを額に食らわせてきた。痛い、と思わず声が上がる。
「アタシに助けてもらおうなんて、図々しいわねホントに……。でも、」
エフは壁に掛けてあった私のガスマスクを外すと、そのまま部屋を出ていってしまう。
でも、とその先はなんだ。額を押さえながら後を追うと、振り向いたエフはおもしろそうに笑った。
「アンタのそういう図々しいトコ、調教のし甲斐がありそうで嫌いじゃないわ」
そう言って私のガスマスクをこちらに放った。キャッチしてそのままエフの隣に並ぶ。
「そう、ありがとう。私はエフのこと、けっこう好きだけどね」
「あーら、見る目あるじゃない」
さっさと行くわよ愚図、と余計な悪口を言われたけれど、どうやら置いていかずに並んで歩いてくれるらしかった。