二者の選択

ラップの表情は真剣そのものだった。
いや、普段からそこまで表情豊かというわけではないので、いつもの表情と言えばそうなのだけど。
しかし声と合わせてみる限り、私は彼の言葉を真剣なのだと受け取った。
話があると事前に言われていたから、どのような話題であってもいいようにと心の準備はしていたけれど。

……さて、私はどうすればいいんだろう。
私も至って真剣だったが、頭はどこかで少し他人事みたいに考えていた。
彼の言葉が、予想を超えていたからかもしれない。それでも彼と向き合っている今、この瞬間、私はどうするべきか。

 

「失礼……あまりにも急でしたね」
「や、……うん、まぁ」

 

驚きと戸惑いが声にそのまま出てしまって、煮え切らない答え方になってしまった。

 

「今すぐに答えを出す必要はありませんので、誤解なさらずに」
「うん、わかってるよ」
「ですが……、いずれは答えをいただきたいと思っています」
「……うん」

 

ひとまずそれはわかっている。私が頷いたことに、ラップは安心したように微笑んだ。私がこの場を濁して逃げるとでも思っていたのだろうか。

 

「私には強制する権利も、無理を言う資格もありません。あなたの答えをすべて受け入れます。お待ちしますので、選んでいただきたい」

 

あなたが、後悔しないほうを。
ラップの言葉を自分の中で反芻した。後悔しないほう。それを考えて、私の口は自然と上がってしまう。

 

「それは無理だよラップ」

 

不思議そうにしているラップを見上げた。

 

「後悔しないほうを選ぶのは、私には無理だよ。……私はきっと、どっちを選んでも後悔するから」

 

後悔しないほうを選ぶ。私には絶対に無理なことだった。だって私は心が弱いから。

考えて考えて、考え抜いた末に選んだとしても。きっといずれは『あの時、違うほうを選んでいたら』と考えてしまうだろう。どれだけの決意を込めていたとしても、多かれ少なかれ、選ばなかったほうに思いを馳せてしまうのだ。
だから私は、どちらを選んでも後悔はしてしまうんだろう。

情けなくてごめんね、そう謝ると「いえ」とラップは微笑んだ。

 

「あなたらしく素直で、大変良いと思います」

 

そんな風に、私を責めることもしないラップはきっと優しすぎるのだ。
意思が弱いと罵ってくれていいのに、それをしないラップに苦笑が漏れた。
きっとラップだって、迷って考えて、その上で私に話をしてきたのだろう。私のこと、自分のことをとことん考えてくれたのだ。
そうして彼が出した答えが今で、それを私に話して、答えは今すぐでなくていいと言う。

私は心が弱い。意思も弱い。
どちらを選んでも後悔するなら、せめて後悔が少ないほうを。私が選びたいほうを。そこまで考えて、結局は答えは決まっているのだと改めて思えてしまった。

私はやっぱり後悔するだろう。これを選んだことを。
良くも悪くも、幸福を選んだことを。愛などという感情で選んだことを。

 

「ラップ」

 

名前を呼ぶと、ラップは何かに気付いたように、らしくなく少し迷ったようにそっとこちらに手を差し出してくれる。
目を閉じて、ゆっくりと呼吸をした。目を開いて、彼を見上げて、微笑んで。
決意を込めて、彼の手に自分のを載せた。ラップは目元を緩めると少し膝を曲げた。私と彼の額が重なる。載せた手が強く握られる。

きっといずれは後悔するのだろう。私は最低だ。
それでも、

 

「一緒に後悔しましょう、ラップ」
「そうですね。ならば私は、あなたに後悔などさせないように努めますよ」

 

それでもきっと、この手を取らない後悔よりは、ずっとましだと思うのだ。

 

──マスター、私と共に、生きてくださいませんか。