好きです。
まどろっこしいのはよくないと思って、短く、だけどもしっかりと気持ちを乗せたつもりだった。
きょとんとした様子のキセルさんは何秒か黙っていた。何秒か後に、その間に意味を理解したのかぶわっと一気に顔が赤くなっていった。
これは予想していた反応だ。ここまで真っ赤になるとは思わなかったけれど。
日本という島国では、愛情表現をストレートに行う文化が薄いらしい。奥ゆかしく、遠回しに、時には密やかに伝えることが多いとイエヤスさんが言っていた。
そうやって伝えることも考えた。だけどもキセルさんの性格を考えるに、遠回しに言っても伝わらないと思ったのだ。
「え……、ええ……!? だ、だめだよ、マスター、簡単にそんなこと言ったら……!」
しかも、お、俺なんかに……と続いて、ああやっぱりそうなるかと苦笑した。
「簡単になんて言ってません。これでも、たくさん考えて、真剣に言ってます」
真っ直ぐに見上げて目を合わせる。
言葉に詰まったキセルさんは慌てて目線を逸らした。すぐに答えが来るとは思っていないから、特にショックではない。
しかし答え以前に、確認としてひとつ訊いておきたいことがあった。
「私のこと、嫌いですか?」
はっとしたようにキセルさんはこちらを見て、あ、えと……と俯いていく。
「嫌いなわけ、ないよ……」
「そうですか。嬉しいです」
「君は、俺なんかにも優しいし……励ましてくれるし……、大事にしてくれる。でも、俺は、」
キセルさん、と彼の言葉を遮る。ゆっくり近づいて距離を縮める。もしかして逃げ出されてしまうかもしれないと思ったけれど、キセルさんは堪えるようにシャツをぎゅっと握りその場にとどまっていてくれた。
「キセルさんが、自分なんか……って思ってしまうの、私もわかってるつもりです。だから考えました」
「な、なにを……?」
努めて明るく微笑んだ私を、キセルさんがどう思ったかはわからない。
「キセルさんだから大事にしたいって、それをわかってもらえるまで何回でも伝えていこうと思ってます。基地で会う度に。会えないときは探して毎日言うつもりです」
今までも基地内での交流はあったけれど、それは偶然会ったからお話していたという成り行き任せのものだった。でもこれからは、彼に会うことと交流を目的としていく。
それを理解したのかキセルさんはぎょっとしたように目を丸くした。
「そ、そんなことしたら、君の時間が無駄になっちゃうよ……!」
「私の時間が無駄かどうかは、私が決めます」
いつになく強い口調で言った私に、キセルさんはちょっと驚いたようだった。
嫌いじゃないと言ってくれた。それはもしかしたら、私が持っている感情とは違うかもしれない。
信頼とかそういうもので、恋や愛ではないかもしれない。でもとにかく今のままでは、キセルさんの気持ちもわからなければ私の気持ちも伝わり切らないと思うから。私は精一杯、彼に伝えたいと思うのだ。
「キセルさんいつも言ってるじゃないですか。人生は博打、って。だから私も、恋で博打することにしました」
好きか嫌いか、叶うか振られるか。二つに一つはまさに博打。今日からの私はギャンブラーだ。
「よかったら、キセルさんも乗ってもらえませんか? 私は、キセルさんに気持ちが伝わるほうに賭けます」
「え、えと……、じゃあ、俺は……」
あれ、と面食らった。
「じゃあ」と言うことは乗ってくれるということだ。
ああでも、普通に考えればキセルさんは「伝わらないほうに賭ける」のだ。伝わるほうに私が賭けているのだから。でも私は、絶対にこの賭けに勝ちたいと思っているけれど。
決意を強くしていると、キセルさんの口がこわばったような気がした。赤みが引いていた顔が、心なしか再び赤いような。
「俺は……君に、ちゃんと気持ちを返せるように頑張るっていうほうに賭けるよ……」
「……はい?」
「い、今は、その……サングラスがないから、ちゃんと言えないけど……。素の俺でも言えるように、頑張らないとって……」
いつも以上におずおずと口にされた言葉に呆気にとられた。
それは、つまりだ。
理解した途端、私の顔にも彼の赤みが移ったようだ。同時に、小さくふき出してしまう。
「変な博打になっちゃいますね」
「そ、そうだね。でも……いいんじゃないかな。俺たち……自分と勝負してるんだって思ったら……」
「その考え、もらいます」
お互いに伝えたいことがある。
もうわかっているけれど、それをするために、自分と勝負をしなくては。その時はちゃんと、キセルさんの言葉を聞きたいと思う。