※2022年5月現在、イベントでも本編でも出ていないねつ造120%の話です。
謎シチュエーション。雰囲気で楽しめる方向け。
華やかな会場を後にした。
着慣れないスーツではあっても、シャツやネクタイを堅苦しいとは思わなかった。ネクタイなんて制服でも戦闘服でも身に着けている。
さて、連れ立ってここに来た彼女はどこに行ったか。そう思って建物から外に出れば、出入りの門へと続く中庭が広がる。
「貴銃士だな?」
階段を下り中庭に足を着けた途端、背後からの声に立ち止まる。
声だけだったら決して立ち止まりなどしなかったが、背中に押し付けられたものの感覚に、一瞬で止まる判断を下した。
「……だったらどうする? 誰だ、お前ら」
振り向かずにライク・ツーは質問を投げかけた。背後には二人、と認識をする間に、自分を囲むようにして銃を構えた男たちが数名やって来る。
「こちらが答える道理はない。おとなしくしていてもらおう」
「断ったら?」
「その時は、そちらに消滅してもらうだけのことだ。こいつを殺してな」
その言葉と同時に別の男に連れてこられたのは、自分のマスターだった。
口にガムテープを貼られ声が出せないのは見てわかった。手は縛られているのか定かではないが、後ろに回され男に押さえられているらしい。
会場に合わせて一応は華やかにドレスアップしているが、それによる動きにくさが仇になったか。そうでなければ、いくら女性とはいえ訓練された候補生がここまであっさりは捕まるまい。
「偶然とはいえ、会場で手袋を外してくれて感謝する。貴銃士のマスターであるというのがすぐにわかった。この女を殺せば貴銃士のお前も消える。違うか?」
その通りだとは言えず、黙って両手を挙げ無抵抗を示す。
ここは言われた通りおとなしくしておくのが最善だ。彼女を殺されればすべて終わってしまう。
「何が望みだ?」
「マスターの力を持つ者のみでも構わなかったが、同行者が貴銃士であるのは嬉しい誤算だった。お前も来てもらおう。……お前の本体はどこにある? 貴銃士とはいえ本体がなければどうにもならないのだろう? 場所を言えば取りに行かせる」
「へぇ? そこは丁重にしてくれるのか」
「我々としても、すでに召銃されている貴銃士が手に入るのは都合がいいのでな。……早く言ったほうが身のためだぞ。お前にとっても、本体が手元にないことはデメリットだろう?」
そうしないのならばこいつを殺すと言わんばかりに、マスターを捕らえている男は拳銃をマスターに押し付けている。
ライク・ツーは大きくため息をついた。
「……まぁ、脅しにしては言ってることが合理的だな」
でも、とライク・ツーは笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「一つ教えといてやるよ。レディはもっと丁重に扱うもんだろ?」
「なに……?」
背後の男が言うが早いか、マスターを捕らえていたはずの男は音を立てて倒れた。
「な……っ!? おい、女をとらえ、」
瞬間ライク・ツーは身を翻し、背後にいた男の一人に回し蹴りを喰らわせた。もう一人のほうへも一瞬の動揺を見逃さず、持っていた銃を掴み、首に一撃の拳を打ち込む。
さて、と振り向けば、ライク・ツーを囲むように立っていたはずの男たちはもう、一人しか残っていなかった。すでに数名は気を失って地面へ倒れている。
あと一人なら楽勝だな、とライク・ツーは傍観を決めることにする。
ドレスで着飾った彼女は着慣れないはずの格好を物ともせず、ハイヒールを履いた右足で相手の鳩尾に重そうな蹴りを打ち込んだ。
ああ、いい釣りになった。ライク・ツーは少し乱れた襟元を整える。
スーツの内側に隠し持っていたハンドガンを取り出していると、彼女が不快そうな顔をしながら口に貼られたガムテープをはがしていた。
「行儀悪かったな、お嬢サン」
そう言ってハンドガンを放ると彼女は片手でそれをキャッチする。
「それは誉め言葉でしょう?」
「ポジティブでけっこうなことで」
思わず肩を竦めた。
元々そういう作戦だった。親世界帝派ではないにしろ、マスターの力を狙う組織はいくらでもいることだろう。
これまでの各国の傾向から、貴族や階級の高い軍人、政府に目をかけられた者などそれなりに地位のある人物たちがマスターとなっている。
ならばこういった特別なパーティーの舞台に、力を持ったマスターがいようともおかしくはない。力を狙う組織だってそのくらいの分析はしていることだろう。連合軍側はそう踏んでいた。
ただし、作戦立案の時点で『釣れない』可能性のほうが高いというのもわかっていた。しかしながら釣ってみる価値はあるということで今日の作戦を決行した。ラッセルはあまり気の進まない様子だったが、候補生の強気な押しに負けていた。
ライク・ツーのマスターである彼女は、いい意味で肝が据わっていて、悪い意味ではクソ頑固で恐れを知らなかった。
だから彼女が多少の無茶をしようとも、うまく修正していけるだろうライク・ツーが同行したのだ。
結果としては現在の通りだった。うまく釣れた、ということになる。
会場の近くで待機しているであろう連合軍の別部隊に無線を入れた。この男たちがどこの組織かを調べるのは任せていい。
しかしながら会場であるこの敷地内を出るまでに何が起こるかわからない。彼女は受け取ったハンドガンの状態を確認した後、ドレスの裾から中に手を突っ込んだ。
パチン、と何かを外すような音の後、彼女がドレスから引っ張り出したのはUL85A2だ。言わずもがな、貴銃士ライク・ツーの本体である。
「左足は軸足だし、攻撃に使ってないから異常はないと思うけど確認してもらっていい?」
「……ったく、俺の本体を脚にくくりつけて持とうとする奴なんてお前くらいだよ」
手渡された本体に異常がないことを確認する。
「だっていざ必要になった時に銃は車の中です、じゃ話にならないと思って」
「まぁ、お前にしてはいい案だったよ」
ハンドガンはともかく、同行するライク・ツーの本体はどのようにするかというのは、作戦が立案された時にも議題になった。
パーティー会場でケースに入れて持ち運ぶなどできるわけがない。かといって会場に預けたりすれば中身を改められた時に余計な問題が発生する。移動用の車に置いておく、ではいざ戦闘になった際に不便しかない。
『それなら私が隠し持ちます』
そんな提案をしたのは彼女だった。
すでに気を失ったこの男たちだって、まさか目の前に捕まっていた女がドレスの下で、脚に約4kgのアサルトライフルを括りつけているなんて思うものか。
銃という名の重りが外れた彼女は、うわぁ脚が軽い、などとのんきに言っている。そんな様子にまた肩を竦めたライク・ツーは、行くぞと声をかける。
「あ……あの、ライク・ツー」
「ん? なんだよ」
「ちょっと、ヒールが折れたみたいで歩きにくいので、手をお借りしたいんですが……」
「……はぁ」
あれだけ暴れればそうもなるか、と額に手を当てた。
倒れた男の傍に落ちている白くて細いものが折れたそれだろう。もはや拾うのも面倒だ。今はここから退場するのが最優先である。
「士官学校の経費で買ったやつでよかったな」
「お、怒られないよね……?」
「平気だろ。お前と俺が無事に戻ればそれでOK。さっさと行くぞ」
手を借りたいと言われて、かつヒールが折れたと言われたならば歩きにくいことが理解できるライク・ツーはそのままマスターの手を取った。
あくまで、パーティー会場で不審な者たちが倒れていたから連合軍が通報を受けて来た、という形にするのがベストである。マスターとライク・ツーが、実は連合軍の者だったとばれるのもそれはそれで面倒になる。
手を貸しつつも小走りで車の元へ向かっていく。
「シンデレラはよくガラスの靴なんて履いて走れたね……、ヒール折れるだけでこんなに歩きにくいのに」
「シンデレラはそもそもヒール折ってねぇからな」
それもそうだね、などと笑う彼女はプリンセスには程遠い。
しかしながらなんの支障も怪我もなく作戦を終えられたのならば、それでいいか。
ライク・ツーがプロデュースした彼女のドレスコードが乱れていることにも目をつむることにした。