夢幻回廊

水面を隔てて手を繋いで

アーロン様と話をしようと覚悟を決めてきたはずなのに、体が硬直して、とてもぎしぎしする。体の向きを後ろへ変えるのも一苦労だ。話を聞いてもらえるかわからない。怖い。怖いけど。顔を上げて、アーロン様を見る。 「アーロン様……先日は、申し…

波打ち際から手を伸ばす

──アーロン様を諦めて。正面からのこの切り込みは、まったく予想していなかった。予想していなかったが。 「できない相談です」 わたしは即答していた。こちらも正面から返す。ジゼルさんは少し驚いたようだ。 「何も知ら…

さざ波の水中から手を伸ばす

我ながら心ここにあらずだと思った。仕事は問題なくこなしている。でも、染みつくほどに慣れたいつものことを体がこなしているだけで、わたしはどこか別の視点にいるような感じがしていた。どうしてこうなったのかを考えると、それはわたしが間違ったことをし…

二律背反

あれ以来、アーロン様の所へ行くと何度かジゼルさんの姿があった。その時は必然的にお茶を届けられないことになっていたが、やむを得ない。彼女との会話がすでに始まっていると、どうしてもその間に入っていくのははばかられる。ご一緒できなくても、せめてお…

箱の中身の解放

※固定名モブキャラが出ます。  アーロン様のことを好きとわかったのは、良いことなのか悪いことなのか。少なくともリーン様は、悪いことではないと言ってくださったけど。それ以降お茶を届けに行く時は、とにかく動揺しないように努め…

これを病気と呼ばずして

最近のわたしはおかしい。自覚しているくらいだから、きっと相当だ。外面がおかしいわけではないので他の人が見たら普通なのだと思うけれど。アーロン様を見ると、なんだかざわざわするようになった。嫌な感じはしない。でも落ち着かない。きっと今日も励んで…

霧のち晴れ

波導は視力の有無だけではなく、距離の遠近すら問わずに物体を感知することができる。わたしは依然として大した段階には達していない。ようやく、感覚の維持が自分の意思で何とかできるようになってきたところだ。結晶根の使用は、相変わらずアーロン様やルカ…

溺れる回遊魚

目を開けると見慣れた天井が見えた。城に来てから宛がわれた自分の部屋だ。覚ましたての目をしばだたいていると、自分のものではない呼吸の音が聞こえてその方向へ首を動かし……飛び起きた。声を上げなかったことを自分で褒めたい。床に座り込んで、ベッドに…

永久迷子

城に戻りすぐさま先生の所へ連れていかれたが、噛みつかれた傷は深くはなく縫合する必要もなかったので、消毒をして包帯を巻くだけに留まった。痛みもそれほどひどくないので、翌日歩いても問題はなかった。先生曰く、応急処置の仕方が良かったのだという。と…

長針と短針が重なる頃に

「リーン様、明日、半日のお休みをいただきたいのですが……お許しいただけますか?」 鏡越しに伺うと、リーン様は少し驚いたような顔をした。わたしが自分から休みをもらうことなど今までほとんどなかったので、その反応にも頷ける。 …

発展途上

自分が波導を扱えるかもしれない。リーン様に事情を話すと、喜ばしいことだと言って波導の修業のための時間をとることを許可してくれた。もちろん本来の仕事には差し支えない程度になるだろうけど。修行にわたしが同行することにルカリオはとても驚いていた。…

予兆の予感

訓練期間を終えて、兵のそれぞれが正式に編成された班へ配属された。本人の希望と各々の適性において分けられていくはずなのだが、わたしはなぜかそれに適応されず上官から直接の辞令を受けることになった。 「リーン様から直々にご指名があった。…