友だち二人

前略

お久しぶりです。変わりなくお元気でしょうか?
ついこの間、カントーから戻ってきました。
できるだけ早めにそっちに顔を出したいと思います。
ひとまず、わたしもポケモンたちも変わらず元気です。ご心配なく。
それでは、また近々。

草々

 

 

あらかじめ書き上げておいた知り合いへのハガキ複数枚に、先ほど買ったばかりの切手を貼りつける。せっかくなので、切手は少ししゃれた季節ものだ。住所をもう一度確認してから、窓口へ向かう。

 

「すみません、これお願いします」
「普通郵便でよろしいですか?」
「はい、全部それで」
「わかりました。お出ししておきますね」

 

お願いします、と窓口の女性に会釈をし、ステラは郵便局を出た。
その場でぐーっと伸びをする。軽く息を吐くと潮の匂いがした。海に面した街なので当然だ。

 

「やっぱりこっちのほうが気温低めだなぁ」

 

寒いわけではないが、つい何日か前まで滞在していたカントーに比べると、少しばかり気温が低く感じる。キッサキシティには相変わらず雪が積もっているのだろうけど。

そのまま近くの公園に足を運んだ。何か目的があったわけではないが、別段急いでこの街を出る必要もない。それにここなら、体の大きなポケモンを出しても大丈夫だ。
六つのモンスターボールを放って、所持ポケモンたちを開放する。

 

「みんな、少し自由にしてていいよ。ポケモンセンターはこの後に行こう」

 

そう言うと、ポケモンたちは各々で行動をとり始める。ステラは大きく伸びをしている相棒を呼んだ。

 

「ウインディ、こっち来て」
「ガウ?」
「ブラッシングしよう」

 

近寄ってきたウインディを座らせて、バッグから取り出したブラシで毛を梳かす。体が大きい分、そう頻繁に体を洗ってやることができないので定期的なブラッシングは重要だ。

 

「ガウ」
「え?」

 

ウインディにつられてそちらに目を向けてみると、砂場で遊ぶトゲチックがいた。それだけならいいのだが、その遊び方が良くない。完全に砂の山に埋もれている。

 

「あ! こらトゲチック!」
「トゲチ?」

 

無邪気に砂山に埋もれ楽しそうなトゲチックが、不思議そうにこちらを見る。
そんなに盛大に汚れていいとは言ってないよ。
多少であればまだしも、ざらざらと砂まみれの状態でボールに戻すのは衛生的によろしくない。ポケモンだって生き物だ。清潔にしておかなくては。

 

「しょうがないなぁ」

 

ブラッシング以外の手間が増えたことに苦笑すると、不意にトゲチックが砂山から引き上げられた。

 

「トゲチッ」
「ギャウ」

 

二本の腕に捕まったトゲチックは、そのまま水飲み場を兼ねた水道へと連れて行かれる。蛇口をひねり流れ落ちる水によって、トゲチックの体についた砂は落ちていく。

 

「あ、どうもありがとう、ニドキング」
「ギャウ」

 

世話を焼いてくれたニドキングに礼を言えば、彼は笑って頷く。
びしょ濡れになったトゲチックは体を震わせて水を落としている。それを見たグレイシアがごそごそとステラのバッグを漁ったと思えば、タオルを引っ張り出してニドキングのほうへ駆けていく。
受け取ったニドキングがトゲチックの体を拭いてやり、全ては完璧だ。

 

「グレイシアもありがとう。みんなさすがだね」

 

気の利いた連携プレーに、見ていたウインディが同意するように頷く。

 

「はい、終わったよウインディ」
「ガウ」

 

立ち上がったウインディは、体をほぐすように伸びをした。
大きな体はバトルではそれなりにアドバンテージを取れるが、日常生活では少々小回りが利きづらい場面もあるのは見ていてわかる。

 

「さてと。ムクホーク、ムウマ、そろそろ行くよー」

 

上空で飛行を楽しんでいる二匹へ向けて声を掛けると、地上へと戻ってくる。鳥ポケモンであるムクホークにとっては、文字通り羽を伸ばす時間だっただろう。
トゲチックを拭いたタオルをバッグへ片付け、ポケモンたちをボールへ戻す。最後にウインディへボールを向けると、吹いた海風で彼の毛が滑らかに動いた。

 

「気持ちいい風だね。せっかくだから、ウインディも歩く?」
「ガウッ」

 

頷いた相棒に、よし、とボールを空のままホルダーに収めバッグを持って歩き出す。

ウインディが後ろから付いて来て隣を歩くのは、以前からなんら変わらないものだ。
いや、少し違うか。以前の彼はもっと小さく、ステラの足元でとことこと歩いていた。それに対してはつい微笑んでしまう安心感があった。
今の彼には、それとは違った頼もしさに満ちた安心感があった。決して、以前が頼りなかったという意味ではないが。

 

「すごくたくましくなったよね」

 

歩きながら首を撫でると、嬉しそうに喉を鳴らした。

ポケモンセンターに到着してから昼食をとり終え、知り合いに電話のひとつも入れておこうかと考えた。近況報告のハガキは出したが、先に一報を入れても問題はないだろう。
ポケモンセンター内に設置されている電話の前に立ち、番号のボタンを押していく。

 

「あれ? ステラ……?」
「え?」

 

番号の途中で、後ろから名前を呼ばれた。どこか聞き覚えのある声に振り向けば、少しはねた黒髪に帽子をかぶり、ピカチュウを肩に乗せた少年がいた。

 

「……サトシ!?」

 

素で大きな声が出た。以前カントー地方にいた時に会った少年だ。まさか、遠く離れた北の土地で会うなど思ってもいなかった。
そして、サトシと一緒にポケモンセンターに来たらしい同行者の一人にまた驚く。

 

「ステラじゃないか!」
「タケシ!」

 

一度に知り合い二人に会えるとはなんと縁深い。
彼らと一緒にいる女の子は「二人の知り合い?」と不思議そうな顔をしている。
自己紹介しようと思ったが、その子の抱いている小さなポケモンが目に入る。ここに来る前に通った森の中でも見た、シェイミというポケモンだった。
だが、そのシェイミの様子はどこか正常ではないように見える。

 

「……ねぇその子、具合が悪いんじゃない?」
「あ、そうだった!」

 

思い出したように焦るサトシに、再会の喜びもそこそこに全員で受付へと走った。