光が見えて通路を抜けた先は、予想もしない景色だった。
清純な水がいくつもの滝となって流れ落ち、生える植物は澄んだ空気を生み出している。その上からは巨大な結晶が太陽のように光を放っていた。
「綺麗な所……」
しばらく言葉を失くしていたが、ぽつりと感想が漏れ出た。実際はそんな言葉で表現し得ないくらい、ここは美しい。
特殊な環境であるのか、オムナイト系統やプテラ、リリーラ系統にアーマルドなどの化石ポケモンが野生で生息している。
「ここは、世界のはじまりの樹の真下なのね!」
キッドがゴーグルを身に着けた。
ようやくはじまりの樹に着いた。その真下ということは。
「じゃあ、ピカチュウたちは……」
『この上にいる』
「よーし、今行くぜピカチュウ! 行くぞステラ!」
「うん!」
サトシに続いて走り出すと「道わかってるのっ?」とハルカの声がかかる。正確な道は知らないし、知らなければいけないことはわかっている。それでも速く速くと心が逸る。
「上に行けば何とかなると思う!」
「そうだよな!」
「ね、ルカリオ?」
『とりあえずは』
「よっしゃ!」
ルカリオの肯定にサトシは勢い付いたようだ。ステラも足が速まる。
進んだ先の足場の悪い通路にステラの勢いは阻まれるが、サトシはそんなことはないらしい。サトシに続くルカリオも、高い段差を軽々と飛び越える。
運動は苦手なわけではないのに、サトシの運動能力を見ると、自分はひどく劣っているように感じて苦笑してしまう。タケシにエイパム並みと言われるだけあるなぁと思いながら、段差に両手をついて地面を蹴った。追い付いてきたマサトを段差へ引き上げてやる。
キッドが通信しているバンクスという人物によると、この岩山は光をエネルギーとして何万年も生き続けてきたらしい。鉱物なのに生きている。さすが、ミュウが住んでいるというだけあってとても不思議な場所だ。
先行くサトシとルカリオを追いかけると外へ出た。
眼下には山々や雲が広がり、ずいぶん高い所へ来たとわかる。上とはいっても、どのくらい上へ行けばいいのだろう。
「おーいピカチュウー! 俺はここにいるぞー!」
「ガーディー!」
サトシの声は大きくこだまする。つられてステラも声を張った。いるのがわかっているなら、呼ぶのが一番早い。
それに答えるように、かすかだが互いのパートナーの声が響いた。
聞こえた。たしかに。その返しに勢い付いて坂道を駆け上る。ステラはとっくにそうなっていたが、さすがのサトシも息が上がっている。
「っ、……?」
何かいる……? 木々の陰で何かが動いたように見えた。
「サトシ、待って!」
サトシは足を止めたが、ステラの声に従ったわけではなかった。
サトシの前に立ち塞がったのはレジアイスだった。レジロックと同類である伝説のポケモンは、サトシに当たる寸前めがけてれいとうビームを放った。
「うわっ!?」
「サトシ……!」
「レジアイス……っ」
派手に倒れたサトシに駆け寄る。
自分たちは敵ではないと言うサトシの声を聞く様子はなく、レジアイスは容赦なく再びれいとうビームを放つ。ルカリオがはどうだんでそれを相殺した。
『説得できる相手ではなさそうだ……。戻るぞ!』
「サトシ、早く!」
「……っ、うわっ!」
一瞬戻ることをためらうサトシだったが、目の前に鋭い氷ができる。あれだけ強力な攻撃を生身の人間が喰らったらひとたまりもない。ステラの言葉にサトシは従ってくれた。
キッドたちが追い付いてきたが「レジアイスだ!」と危険を知らせた矢先に、後方から氷が迫った。
別の横穴に入り、なんとかレジアイスから逃げる。根のようにいくつも結晶が飛び出している場所へ出た。
「誰かぁぁぁ!」
「助けてぇぇぇ!」
自分たち以外の人間の声が聞こえると、横穴の一つから二人の男女が飛び出してきた。
ロケット団と呼ばれた彼らはサトシたちと顔見知りのようで、二人はサトシに泣き付いた。
「この際ジャリボーイでも何でもいいわ!」
「あいつら、なんとかしてくれぇ!」
彼らが指差す所にはレジロックと、──レジスチル。伝説のポケモンたちが三体揃っていて、おまけにミュウの住み処。一体ここはなんなのだ。
『みんなこっちだ!』
結晶の上を渡り、そこへ続く穴へ入る。一本橋となっている足場をルカリオが崩したことで、二体をうまく足止めできたようだ。
レジアイスも含め、三体がかりで自分たちを追い出そうとしている。この岩山は生命体だと言っていた。走りながら胸を押さえた。走り疲れたからではない。……なんだろう、嫌な感じがする。
「うわぁぁ!」
先行していたロケット団へ追い付くと、驚いたことに、ムサシと呼ばれた女性がユレイドルの形をした何かに捕まっていた。
「何あれ……!?」
マサトの声には誰も答えることができない。
コジロウはサボネアとともにムサシを助け出そうとするも、ミサイルばりは通り抜けてしまう。
ユレイドルを模ったオレンジ色の何かはムサシを呑みこんでいった。それに続いてコジロウもオムスターのそれに捕まる。
チリーンをボールから出して逃がしたコジロウは、ムサシと同様に地面へ溶け込むように消えてしまった。
「どういうことなの、これ……」
「……わからな、っ!?」
ハルカに返事をしようとしたステラの声は後方からの破壊音に遮られた。砂煙の中で点滅するいくつかの点は、レジロックとレジスチルのものだった。追いつかれた。
再び走り出すが、通り過ぎた結晶から新たなオレンジ色の物体が生成され始めている。
バンクスによれば、あれはこの樹における白血球のような存在であるらしい。
体内に入ったバイキン……つまりは自分たちを排除しようとしている。この岩山が生きているという何よりの証拠だが、排除対象になるのはまったく喜べない。
「……、うわっ!?」
突然、上の穴から目の前に落ちてきたオレンジの物体にステラは完全に不意を突かれた。──呑まれる。
「ステラ!?」
『危ない!』
ステラを押してルカリオが間に入った。
押されて倒れそうになるのを踏みとどまったが、自分が助かった代償のように、ルカリオがあの物体に捕まっていた。