壊滅的エチュード

ただの貧乏どころか多額の借金を抱えることになった私は、迷惑をかけてしまったサンヨウジム兼レストランで働くことになった。
当然ながらタダ働きだ。働きに相当するお給料分を、借金の金額から引いていく形となる。

こういう時は、ポケモントレーナーなら無料で寝泊まりできるポケモンセンターは本当にありがたい。オアシスだ。
毎日のように朝、ポケモンセンターからサンヨウレストランに通勤して夜に戻ってくるサイクルができていた。ジョーイさんからいってらっしゃいとおかえりなさいを言われる日々。完全に常連である。

 

あの日以降知ったことは、あの三人は三つ子の兄弟だということだ。
故郷のライモンシティで有名な、サブウェイマスターの二人と同じ双生児なのにまったく似ていないなと思った。彼らは二卵性なのだろう。

タダ働きするにあたり、女性従業員用の制服は予備が無かったらしい。
とはいえ私服で働いていい場所ではないので、やむを得ず彼ら三人と同じタイプのウェイター服を借りることになった。
三人の中では細身であるコーンくんと同じサイズのベストやズボンの予備を借りた。少し違うのは、彼らは蝶ネクタイだが私は普通のネクタイであることくらいだ。
それらを着用したときは、意外と様になっていたのか三人とも呆気にとられた表情だった。
……までは良かったのだけど。

 

「……何ですか、この謎の物体は」
「ご、ごめんなさい……」

 

オーブンの角皿に乗った黒焦げのそれは、うまくいけば綺麗なランチプレートのメインになるはずだったものである。うまくいけば。
静かに青筋を浮かべたコーンくんに私は謝ることしかできない。また今日もお怒りを発動させてしまった……。

 

「誰がダークマターを作れと言いましたか! あれほど温度設定を間違えるなと言ったのをもう忘れたんですか!?」
「ごめんなさいぃ!」

 

自分が不器用な自覚はあったけれど、ここまでひどいとは思わなかった。

ひとり旅の中、不器用ながらも料理は普通くらいだと思ってたが、私の「普通」はこのサンヨウレストランではごみくずレベルであることが判明した。
おまけに機械が苦手なことも相まって、オーブンやその他の調理機械もうまく操作できないひどさ。結果、連日コーンくんにこうして怒られている。

ミスばかりしている私は本来のお給料に見合うだけの働きをしていないので、その分どんどんお給料はマイナスされていき、結果的に借金も減らないという悪循環すら招いている。

 

「コーン、今はそこまでにしとけよ。作り直すほうが先だ」

 

ポッドくんに止められてもっともだと思ったのか、顔をしかめたままコーンくんは私の作り出してしまったダークマターをポリバケツへ入れた。
食べ物を無駄にしてしまったこともつらい。つい最近まで貧乏生活中だった身としては、もったいない精神が悲鳴を上げる。

 

「ミエルはこっちの食器を頼むよ」
「う、うん……」

 

デントくんからの指示に従い、使用済みの溜まった食器の片付けに踏み出す。自動洗浄機なのでさすがにこの作業は一度も失敗していない。

 

「皿を割ったりしたらどうなるかわかってますよね?」
「わ、わかってます! すみません!」

 

ぎろりとこちらを見たコーンくんは、食材を切るために包丁を持っている。こちらに向けられているわけではないけど、言葉と共に刃を向ける心象映像が見えてしまう。
失敗したらどうなるのか具体的にはわかっていないけど、そんなことを言おうものならそれこそ本当に刃を向けられそうだ。

失敗したらどうなるか。
たぶんその包丁で一突きにされます、はい。

 

壊滅的エチュード
───練習曲